正面の相手はまっすぐ俺を見つめていた。
俺も同じく、まっすぐ相手を見つめる。
ここはコロシアム。命の奪い合いを観劇する場所だ。
俺たち二人を観劇しているのは、周りを囲っているのは、この国の王。
そして、万を越える国民達。
爛々と眼を輝かせて俺たちを囲む奴らは悪魔となんら変わりない。初めは強制されて観劇していた奴らも、今ではもう立派なお客様だ。
仲間の忠告を聞かなかったのは失敗だったかもな。俺もこの国に足を踏み入れなければこんな場所で戦わずに済んだのだが。
……いや、後の祭だ。それを考えるのはよそう。
相手は屈強な男だった。俺の倍ほども身長がある。体重も同じく。パワーでは圧倒的に負けている。
だが、何も生身で戦っているわけじゃない。
俺たちは、互いに両手剣を握りしめている。これを使って、斬って、突いて、裂いて、殺すのだ。
俺とて、こんな事は本意ではない。だが、やらなければ殺される。観客席の最前列では弓を脇に抱えた男達が俺たちを監視している。
――――初手。
初手を取った方が、有利に働く。先に覚悟した方が、初手を取れる。
そう確信した俺は、すぐさま動いた。
不意を突けたのか、相手は動揺した様子で、剣を握り直した。
だが遅い。俺はあらん限りの力でぶれた剣先に自身のそれを振るう。
握り直した隙を狙ったのだ。相手の剣などはじき飛ばせる、はずであった。
にもかかわらず、俺の渾身の一撃は、きしりと音を立てて止められた。
肉体的なパワーの差。それがここまで重いとは、想定外だ。
相手はにやりと笑うと、反対方向に剣を薙いだ。
俺の剣は遠く飛ばされる。
観客席で国民が笑い声を上げているのがわかる。絶体絶命のピンチ。そう思っているのだろう。
確かに、剣は相手のはるか後方。拾いに行ける距離ではない。
相手が雄叫びを上げ、こちらへ駆けてきた。これで勝負を決めようというのだろう。成る程、殊勝な判断だ。勝負を長引かせては、負ける可能性、俺にとってのチャンスを作るだけだ。
しかし、チャンスはこの瞬間にこそある。
剣を振りかぶって走ってきた相手に向かって、俺は思いきり右足を振るってやった。
「ぐぁっ!」
鈍い声を発して、相手が倒れる。
その足には、太い針が刺さっていた。
――切り札というのは、隠しておくものだ。俺の靴には仕込み針が入っていたのである。
俺は相手に近づくと、その剣を奪い、首元に剣先をやった。
「た、たすけてくれ……」
命乞いか。ま、当然だろう。
「ならば、両腕を背後に回せ」
そう言いつつも、俺は視線を少し上へあげていた。その先は観客席。国王。
……はは、作戦通り。
俺は『それ』が行われると同時に左足を振るった。
そして、左足から飛んだ針の先を確認すると、相手の耳元へ囁いた。
「茶番は終わりだ。もう殺し合いの必要はない。お前も俺の仲間になれよ」
仲間というのは、大切だ。
俺の仕込み針が監視者の一人の眉間に刺さったのと同時に。
俺の仲間が、国王の首をはねた。
コロシアムは騒然となったが、こちらとしては好都合。それを狙ったのだ。
国民が逃げ惑う。
人間のクズだな。そんな台詞が胸中によぎる。
俺は――――背後から続く好敵手へ勝算を送り、そっとコロシアムを出た。